教会と福祉

稲垣久和です。
先のブロッグで書いた続きとしてお読み下さい。
あの高福祉高負担のスウエーデンで伝統的教会の福祉への関わりはどうでしょうか。ただし国民教会という発想のない日本ではイメージしにくい面がありますが、国や行政とはまったく無関係に教会の制度の中にデイアコニア(執事)として福祉専従職務をおいています。

スエーデン教会(ルター派の国民教会)は紀元2000年に国家から完全に分離したとは言え、いまだに形式的に人口の70%以上が会員で宗教税として国民は自発的に税金を治めています。礼拝出席率は著しく落ちており、それに反比例して福音的集会がかなりの人数を集めています(ただし彼らの多くも国民教会にいまだ会員席を置いています)。国民教会の会員ではない人も葬式費用と称して国家に宗教税を納めています。
デイアコニア制度は、約150年前にスエーデン教会で制度化されるようになりました。
基本的にはドイツのルター派教会からの影響と見られます(拙著『公共福祉という試み』99頁参照)。奉仕者は主として女性(結婚してもよい)で男性も少しはいます。Deacon になる人は18歳以上の高卒で4―5年の訓練を受けるのですが、看護師やSocial Workerとしての専門の訓練を受けます。スエーデン教会は4つの専門学校を持っていて、神学関係の科目と組み合わされたカリキュラムを提供しています(ちょうどTCUの福祉専攻のように)。大学等で福祉を学んだ人でも可能です。専門学校で訓練を受けたあとに病院や施設で1年以上就職してから教会で按手礼を受け、正式ディアコニッセとなります。教会にはPriest,(Bishop), Deacon, Music master, Bible teacher, の4つの職務があり、按手礼を受けるのは最初の二つのみです。教会のリタージーではpriest(牧師)とdeacon(執事)が色カラー服をつける(priestは赤、deaconは緑)とのこと。現在、同教会には3400人のpriestと1100人のdeaconがいます。各教区(parish)に派遣され貧困者、アル中、難民、ホームレスなどの世話をしていますが、その派遣先は公立の施設の場合も多いし、もともと奉仕専門職で伝道は基本的にはしません。公的サービス機関が教会派遣のdeaconを受け容れるのは長い間の国民教会への信頼があるとのこと市民社会におけるキリスト教的価値については興味があるところです。現在、社民党な
ど一切キリスト教と無関係ではありますが、その「自由、平等、連帯」の価値観などに
なると哲学的に十分な基礎を持っていません。紀元1850―2000年の間にスエーデン社会には(1)社会民主主義(Social democrats )(2)自由教会運動(free church movement )(3)禁酒運動 の3つの運動が起こり(2)(3)は重なる場合が多かったのですが、①も広い意味でその価値をキリスト教に置いている、というのが教会関係者の見方です。社会民主主義は労働者の運動だったのでpriestなどは支配階級として敵視されたところがあったようです(このあたりはオランダの場合とかなり違います)。価値観についての由来は、社会民主党は認めていませんが、中央党の綱領を見るとキリスト教的出自がはっきりとうたわれています。アメリカ経由のリベラル民主主義の形態しか知らない日本では「民主主義の価値はどこからきているか」などの
問いはほとんど話題にもなりませんが、ヨーロッパでは避けて通れない歴史的事実です。高福祉高負担の基本的人間観も社民主義からきたとの説明が日本では流布していますが、それだけではなくその由来については中央党のキリスト教的価値観からきているのです。(現在の与党は9月19日の総選挙で穏健党、国民党、中央党、キリスト教民主党の四連立で社会民主党は2006年以来野党となっています。)