ユニークな福祉実践を視察して

3月12日福祉専攻の7名の学生が卒業した。個性豊かでタラントのある学生たちは、外部からの評価も高く、関係する福祉施設担当者から「ぜひウチへ来てもらえないか」と頭を下げられた程である。そのように成長した彼らを主に在って喜ぶと共に、彼らが残していったいくつかのsuggestionを「宿題」と受け止めて、さらなる教育の向上のために小さな決意を胸に刻んだ卒業式であった。

さて、早速その決意のスタートとして、見聞と意識を広げるために横浜にある二つの障がい者福祉にコミットするNPOの働きを視察した。今回はその内、午前中の訪問先の紹介をしたい。

午前中に訪れた場所は、「五つのパン」。精神障がい者のための訪問介護事業から始まって、絵本カフェ(マローンおばさんの部屋)、多世代ものづくり交流ワークショップ&カフェ「いのちの木」などの事業を展開している。

「マローンおばさんの部屋(障害者自立支援法の地域活動支援センターになっている)」では、カフェショップをしながら、ものづくり事業として「カレンダー手帳の製本や販売」、コーヒー豆の殻むきや選別の作業があり、その他にもアートワークや料理教室、パソコン教室などがあり、障がいのある方々が地域と交流し、地域に貢献し、ひとりひとりが自信と喜びを与えられていく場となっていた。

「いのちの木」は、高齢者や障がい者に居場所や働きの場を提供し、かつ市民共生型の新しいコミュニティづくりをめざすというユニークなカフェである。大都市の中で孤立しがちな方々が仲間と生きがいを見つけ、高齢者の知恵や経験が障がい者や若い世代の働き、暮らしに継承されていくという「ものがたり」が紡がれる場所でもある。
まず注目したのは、そのカフェの質感の高さ。外観もすばらしいが、中に入るとさらに上質さと気品といやしを感じるたたずまいで、実に落ち着いておいしいコーヒーやお茶、ハンドメイドで添加物のないパンや菓子を堪能できる。ミシンの音のするカフェとして奥には高齢者の編み物教室があり、お店にはその作品である衣料品やプロの製本や作家が提供したという手工芸品も陳列されていて、ホンモノの質感で満ちている。

さらに感心したことは、この事業自体が福祉制度の枠に収まらないソーシャルビジネスとして、市民に支えられた独立採算事業をめざしているという点であった。2012年3月まで横浜市のセーフティネットモデル事業にも指定されていたが、現在は独立。そのためにcrowd funding(アイデアを実現したい実行者が、共感した支援者から支援金と想いを集め、みんなで夢を実現するというしくみ)を導入しようとしている。
そして、驚愕であるのは、この働きが福祉の専門家である牧師と数名のクリスチャンの祈りの中で、教会発信の働きとして生まれたことである。まさに公共哲学でいうところの「親密圏から公共圏」へとクリスチャン共同体が飛躍・昇華したケーススタディである。

このような多様で多元的、従来の制度の枠に縛られない自由と創造性あふれる福祉文化の形成こそ、TCU福祉専攻のめざしていたものではなかったのではないか。ふと原点に立ち戻していただき、多くの刺激とビジョンを与えていただき、感謝にあふれた訪問となった。ちなみに、4月27日に東京中央教会で行われる「第2回TCUケアチャーチプロジェクトオープンセミナー」でこの「五つのパン」の働きを立ち上げたNPO代表である鹿毛牧師の講演が予定されている。ぜひ、多くの方にお越しいただきたい。
(井上貴詞)