「寒と暖」

4月下旬から5月はあっという間に駆け抜けた。その中でのハイライトは、学園行事として恒例となっている「世界宣教講座」と「スプリングリトリート」である。それぞれ5月の第二週と三週に行なわれた。前者は学園の建学の精神の一つである「世界宣教」に学園全体の目を上げる時であり、後者は、新学期を向かえて新たに学園として自分たちの存在と使命を共有する時であるといえる。寒暖が日毎にめまぐるしく変わる昨今だが、それはまた、私たちを取り巻く世界や社会の浮沈と呼応しているかのようである。でも、とにかく寒いという5月であった。日本という国の状況も、普天間の取り組みや口蹄疫対処が出口の見えない局面にある。人々の心も寒々しく、不信に満ちた5月であった。寒さの中でこの二つの行事が「暖を取る」ものとなったのではないかと思う。

一つの暖である世界宣教講座にインドからムーリ・メノン氏を迎えた。彼は敬虔なヒンズー教の一家で育つが、大学卒業後、ムンバイのドイツ企業で会計の仕事につく中、キリストに出会った。現在、教会の牧師や指導者を育てる神学教育に携わり、アジア神学協議会(ATA)のインド代表である。今回の講座のテーマは「現代世界の宣教のチャレンジ」ということで、「ポストモダン」、「多元主義」、「原理主義」の課題をキリスト教宣教という観点から、インドとその教会の実情を踏まえつつ語られた。特に、印象に残ったのは、彼の自己紹介にあった。彼は自分のことを「クリスチャン」とは言わずに、「イエスに従う者」と紹介する。インドにおいてクリスチャンとは「欧米人に倣う輩」と理解され、逆に福音に心を閉ざす用語となるという。インドの歴史や文化事情、そこにある教会の課題が見えてくる。彼のユーモアと謙遜な態度に心暖まる時となった。

もう一つの暖は、スプリングリトリートで軽井沢の恵みシャレーで行われた。15年ぶりの大学と神学校の合同開催である。大学と神学校が合同して、今年から「教会教職課程」がスタートしたが、その意義を覚えて一緒に時を過ごした。大学と神学校から学生がリトリート委員として合同委員会を発足させ、協力の中で行われたことも意義深い。テーマは「Identity – 地の塩、世の光 – 」で、学生一人一人が自分のアイデンティティを聖書から見つめ直し、召しと献身を再確認することにあった。山口陽一神学校校長からの簡潔で味付けの良いメッセージに一同、改めて自分の存在の意義とその使命に思いを馳せる機会となった。メッセージ後の、大学生と神学校生混成の小グループでのディスカッションに、本学の持つ「一致と多様性」の素晴らしさを垣間見る思いがした。「ふたりはひとりよりまさっている。・・・ふたりがいっしょに寝ると暖かいが、ひとりでは、どうして暖かくなろう。」(伝道者の書4:9,11)