TCU教員が新入生にすすめる本 NO.2

TCU教員が新入生にすすめる本 NO.2 推薦者:稲葉裕先生(2012年度校医、キリスト教福祉学教員、順天堂大学名誉教授)

Ⅰ 私の読書から

1) 日野原重明・山本俊一編『死生学』(第1集~第3集) 技術出版  1988~1990年
恩師山本俊一先生が東京大学を定年後聖路加看護大学に赴任されて手がけられた3年間の看護大学の特別授業26回の全記録である。主にキリスト者として活躍されている方々の体験と思索の集大成であり、読んでいて啓発されるところが多い。日本人の死生観(山本俊一)、神経症患者における死の意識について(平山正実)、死の医学と看護(日野原重明)、悲嘆教育(アルフォンス・デーケン)、小児の死とそのケア(西村昂三)などがお勧めのテーマである。

2) 野村実 『人間シュバイツェル』岩波新書 1955年第1刷
私が医学を志すきっかけとなったシュバイツェル医師の生き方を示す有名な本である。神学者、哲学者、音楽家、医療伝道者、ゲーテ学者、ノーベル平和賞受賞者という多彩な生涯を送られた医師を、野村医師が日本人のキリスト者として、共にアフリカで生活された体験から述べられている。「伝説の人」が身近に感じられる本である。

3) 三浦綾子 『氷点(上・下)』角川文庫 1982年 初版
三浦綾子の著書の多くは、私の愛読書である。その原点となるのが、この本である。映画やTVドラマでかなりの人がそのストーリーを知っていると思われるが、ぜひ原文にあたって、三浦氏が、聖書の「原罪」に取り組んだという力作を読んでみて欲しい。

4) マックスウエーバー(尾高邦雄訳)『職業としての学問』岩波文庫 1936年第1刷
プロテスタントの職業倫理を解き明かしたマックスウエーバーの著書で、かなり薄い本ではあるが考えさせられることの多い本である。研究・教育に従事する者の根拠が主の召しにあることを、納得させてくれる本として、ぜひ一読してもらいたい。

5) 賀川豊彦・村島帰之『吾が闘病』(復刻改訂版)今吹出版社 2006年
賀川豊彦は、福音的立場からはかなり批判のある人物ではあるが、日本のキリスト者として社会福祉に取り組んだ業績が、ノーベル賞候補にもされていたことがわかり、見直しが行われていると聞く。この本は友人が復刻版を出すということで、献本していただき、一気に読んでしまった。大変な病気を持ちながら「すべてを神にまかせて」という信仰で乗り切っていく生活の様子はすさまじいばかりの迫力を感じる。

Ⅱこれだけは読んでおこう

前述の5つも含まれると思うが、ここでは特にキリスト教福祉学専攻の学生を意識して推薦する。
1)阿部志郎+河幹夫 『人と社会ー福祉の心と哲学の丘ー』中央法規 2008年
2002年神奈川県立保健福祉大学の創設にあたった阿部志郎氏が、当時厚生労働省に勤務されていた河幹夫氏と対話しつつ作り上げた社会福祉の原点となる哲学がわかりやすく述べられている。本学の稲垣久和先生の「公共の哲学」に通ずる考え方である。日本の社会がこれから進む方向をしっかりと見据えており、福祉を学ぶ上で必須の読み物として推薦する。

2)稲垣久和編『これからの福祉と教会』いのちのことば社 2012年
執筆者には本学のキリスト教福祉専攻の教員がずらりとそろっている。福音主義に立脚する教会における現代の宣教と福祉の問題提起と解決への道筋が示されている良書である。おそらくそれぞれの担当の先生の授業で使用されているので、敢えて推薦する必要はないのかもしれないが、福祉に専攻に共通する問題意識を確認するためにもしっかり読んで理解して欲しいと願っている。