福祉の信仰者列伝(2)

稲垣久和です。賀川豊彦はすでに1927年に「イエスは神の国が常に進歩的のものであり、また成長的なものであることを教えた」と書いていました。ここで「神の国」という言葉ですが、聖書全体からこの言葉の意味を明らかにするのが神学という学問の役割です。一口で言えば「キリストの支配の及ぶところ」ということです。最近、この神の国の説明について、現代にマッチしたキリスト教世界観との関係で、大変よい入門書が出版されましたのでご紹介しましょう。著者は米国フラー神学校校長のリチャード・マウ氏です。彼は1999年と2010年の2回、日米神学会議のためにTCUに来たことのある、私たちもよく知っているキリスト教哲学者・神学者です。
http://www.kyobunkwan.co.jp/publishing/archives/14792
賀川豊彦は日本のキリスト教史において、この神の国の福音のダイナミズムをもっともよく現した人物です。1909年に神戸の貧民街に飛び込んで救貧活動を始め、それ以来、防貧活動、労働運動、農民運動、普選運動、協同組合運動、伝道運動、平和運動、世界連邦運動と次々と信仰に基づくミッションを遂行していった驚くべき神の器でした。1960年に亡くなるまでノーベル文学賞、ノーベル平和賞などの候補に何度か挙げられていました。カガワは世界にもっとも知られた「神の国」運動に挺身する日本人クリスチャンでした。にもかかわらず、国内での彼のキリスト教思想の継承は必ずしもうまくいっていません。これは戦後日本のキリスト教に、彼のような器を評価しうる十分な神学的枠組みができていないことがその一つの理由だろうと思われます。
献身100周年行事を経て、その人と思想の全貌を再評価する作業が進んでいます。たとえば来る9月11,12日の日本基督教学会でのシンポジウムもそうです。私もシンポジストの一人として登壇しますので、関心のある方はご来場下さい。
http://nihonkirigakkai2012.blogspot.jp/