福祉の信仰者列伝(3)

稲垣久和です。

ヨーロッパキリスト教史における敬虔主義に対して、C・リンドバーグ著『愛の思想史』(教文館、2011年)は従来のテキストと異なり敬虔主義とは「愛の実践」を伴う宗教運動であったことを明らかにしています。『敬虔なる願望(Pia Desideria)』の著者として有名な当時フランクフルトのルター派牧師P・J・シュペーナー(1635-1705)は日本人キリスト者におなじみの単なる“敬虔”を説いているだけではありません。リンドバーグは述べています。

敬虔主義はその狙いがキリスト教の実践にあったため、意図的に教派と国境を越えようとしていた。つまり強調点は、信仰から分離できない愛に置かれた。シュペーナーは「キリスト教信仰についての知識をもつだけでは決して十分ではない。というのは、キリスト教はむしろ実践によって成り立つからだ」と強調した。この実践を特徴づけるのが愛である。「実際、愛は、信仰をもって、その信仰によって救われている人の生全体である。そして、神の律法を満たすことは、愛によって可能になる」。「不信仰者や異端者」も含む「すべての人に向かう熱烈な」は、「われわれが欲するすべてのことを成し遂げる」と、彼は書いた。(『愛の思想史』211頁)

シュペーナーの弟子A・H・フランケ(1663-1727)は牧師職と同時に新設のハレ大学で敬虔主義と社会運動を進め、その内容は『ハレの敬虔(Pietas Hallensis)』として英語で印刷され、イギリスやアメリカ植民地にも影響を与えました。

フランケは、生きた信仰の徴としての愛の果実に大きな価値を置いた。貧しい者や社会から取り残された者のための彼の精力的な努力は、誰が隣人であり、彼あるいは彼女をいかに愛するかということについての表現である。ハレにおける計画は、社会的かつ経済的な活動における愛のうちに働く信仰が信頼できるものであると認められた。(同書、215頁)

この影響はイギリスのジョン・ウエスレーにも及びました。ウエスレーの信仰的敬虔と産業革命後の工場労働者への社会実践はよく知られているところです。19世紀のメソジスト教会から救世軍が出てきましたし、イギリスやアメリカでのセツルメント運動やCOS(現在のソーシャルワークの源)の運動もこのような流れでのキリスト教の運動です。この当時ヨーロッパ各地“労働者問題”へのキリスト教側からの取り組みがなされました。
今回、私たちが行う「ケアチャーチ・プロジェクト」 、これは今の日本でこの時代の福音主義の信仰の隣人愛の実践の試みです。すでに各地で行われている実践のネットワーク化の機会になればと願います。是非、祈りに覚えて頂ければ幸いです。