福祉の信仰者列伝(4)

福祉の信仰者列伝第4回
稲垣久和です。4月27日のケアチャーチ・プロジェクト第2回「福祉カフェ」は、多くの参加者があり、とてもよい学びの機会となりました(ケアチャーチのページ・動画のリンクがあります)。
TCUの存在とそのキリスト教世界観に沿った教養教育、そして福祉専攻の立ち上げとさらには大学院教職課程での福祉と教会論との学び、これらが総合的にケアチャーチ・プロジェクトの中に出てきています。今日の日本で、地域教会を形成するとはどういうことか、と。今後に記録集を作っていきますが、同時に地域教会の皆様からの御意見を頂いて、そのプロセスの中に21世紀日本のキリスト教宣教戦略を探っていくことになるでしょう。
福音派教会はこれまで伝道運動に成果を上げてきました。しかし、世界のキリスト教を見れば福音主義のグループは伝道だけではなく、十分に文化的な力をつけてきていて、カトリックと並んでキリスト教の主流になりつつあります。たとえば、よく知られたローザンヌ運動における第3回宣教会議で出されたケープタウン誓約を見て下さい。「神の愛」から出発した声明では愛の実践が強調されていて、伝道運動だけではなく、奉仕の側面でも世界各地でリーダーシップを発揮することが期待されています。しかし、今後、日本の福音派が、キリスト教全体を引っ張っていけるグループになっていけるかどうか、そしてそのような十分な評価を得ていけるかどうか、これは私たち一人一人の意識と働きにかかっています。
神学的な側面もあります。福音派のルーツの一つが敬虔主義にあることはよく知られていますが、その敬虔主義が愛の実践をともなっていたことを前回福祉ブログ(10月1日)に書きました。私たちは神の前に真に敬虔であるとはどういうことかを学びつつあります。単に「伝道と社会的責任」といった二元論ではなく、神の前に敬虔であること、神と人を愛する信仰へと脱皮しているかどうか、独りよがりの自己満足的な信仰ではなく、「喜ぶ者と共に喜び、泣くもの共に泣く」(ローマ12:15)これが問われているのです。
宗教改革以後の歴史を見ると、正統的福音主義の教理を確立するだけでは不十分で、それが真に信徒の一人ひとりに生活化しているか、そして教会形成に、地域コミュニテイ形成に生かされているかどうか、先達たちは問いました。
前回にルター派の敬虔主義について触れましたので、改革派系の敬虔主義を垣間見てみましょう。イギリスのピューリタン運動についてはよく知られていますから、オランダの場合を例にとってみます。オランダの敬虔主義のスタートはヴィルヘルム・ア・ブラッケル(1635-1711)という人物で「教理と生活の一体性」を強く主張しました。ドイツのシュペーナー(1635-1705)とほぼ同じ頃です。ブラッケルの影響は有名なアブラハム・カイパー(1837-1920)にもおよび、そのカイパーは信仰の体系化と生活化を目ざす中で「キリスト教世界観」の必要性に至るのです。カイパーの福祉や政治への貢献は言うまでもないところです。
http://www.kyobunkwan.co.jp/publishing/archives/14792
オランダのキリスト教民主主義の生みの親であり、首相もつとめた人物でした。
私たちのキリスト者としての働きはまことに微々たるものですが、それでも神の御前に敬虔に歩んだ多くの先達に見習いたい、このように思わされる日々です。