日本学術会議をめぐる問題について ~ 学長の見解

2020年10月28日

日本学術会議が推薦した105人の候補者のうち6人が任命されなかったことは、日本学術会議の独立性と学問の自由への侵害であるとされ、またその理由の説明がないことが批判されています。学問の自由をめぐる問題であることから、日本学術会議はもとより数多くの学会や大学関係者からも、説明と6人の任命を求める要望が出されています。

日本学術会議は、戦時中の学問・思想統制への反省から1949年に設立されたもので、日本学術会議法は、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する ことを使命とし」と規定しています。日本学術会議は「独立」して職務を行い(3条)、政府に「勧告」する(5条)権限を有しており、その会員は学術会議の「推薦に基づいて」内閣総理大臣が任命すると規定されています(7条)。戦後の民主主義にふさわしい制度であり、「学会から推薦された者は拒否しない」という1983年の政府の説明は、制度の趣旨に添う適切なものであると考えます。
今回、6人を任命しなかったことと、その理由の説明が「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から」としか語られないことへの批判が高まる中で、日本学術会議のあり方を見直すという対応がなされていますが、これは問題のすり替えです。日本学術会議を見直す必要があるなら、それは別になされるべきです。今回、首相が105人の推薦名簿を「見ていない」と言われたことには驚きました。説明がないので任命拒否の理由もわかりませんが、学術の立場から政権の耳に痛いことをも「勧告」することは日本学術会議の使命であり、それを諒とする政府であってこそ国民の信頼を得ることができるのです。
日本学術会議の210人の会員は、さまざまな研究分野の国内約87万人の研究者の中から選ばれています。会員候補者は、選考会議が学術研究団体の推薦により、学術的業績の高い候補者を選び内閣総理大臣に推薦していますが、この度、任命されなかった6人の中には、私たちが日頃からその学術的業績に注目し、敬意を抱いて来たキリスト教学の研究者も含まれています。この方も含め、人文・社会科学の候補者からの6人が任命されない理由がわかりません。日本学術会議が要望する理由の説明と会員候補者の速やかな任命を、私も願うものです。

2020年10月27日
東京基督教大学 学長 山口陽一

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