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第1回 B-1 市民ボランティア、地域ガバナンス、公共政策 研究会

2014.6.28|東京ガーデンパレス 桂の間

 

発題:
広井良典|公共政策、科学哲学/千葉大学法政経学部教授
岡村清子|老年社会学、福祉社会学、女性労働論/東京女子大学教授

 

[概要報告]
「ポスト成長時代の地域・公共政策・価値」というタイトルの広井良典氏の発題では、人類史的に「拡大・成長」と「定常化」という繰り返しがあったことが示されます。第一次は人類誕生から農業開始まで(1万年前)、第二次は農業開始から300年前の近代化以前まで(この時期の定常化の入口に枢軸時代の精神革命があった)。第三次には産業化・市場化・情報化・金融化で成長・拡大した後、現在は定常化に移行しつつあり、新たな地球倫理という精神革命が必要になっていると主張します。

成長によるパイの拡大は私利追及を肯定しましたが、定常化への過度期には(枢軸時代の精神革命のように)、利他性・協調性への関心が強くなります。日本社会固有の文脈では、黒船ショックによる中央集権システムを通じた拡大・成長があり、それはある部分うまくいった面もあるのですが、今日は集団を超えたつながりの原理を探すべきと考えます。例えば、人生前半の社会保障や、コミュニティ中心のケア重視への転換などのように。

岡村清子氏は地域三世代共生の事例を紹介されました。富山方式の「このゆびとーまれ」事業は、多くの地域でモデルとなりました。この事業の場合、立ち上げた3名の女性たちはみな看護師で、彼女たちは強いミッション(使命感)をもって活動を担ってきました。それは大変尊いことなのですが、もし篤志家のミッションが後の世代に継承されない場合、事業は持続可能ではなくなってしまいます。そのため岡村氏は、公的な予算措置の必要性を言います。
こうした課題を、今後の日本でどのようにしていったらよいのでしょうか? これをNPO側の課題として考えると、事業継続についてNPO自身のアカウンタビリティ(説明責任)が不足しているとみることもできるでしょう。岸川洋治氏は、このような公的「予算措置」を求める背景に、「措置制度のほうがまだよかった」というような、旧来の福祉のあり方に戻ることを願うメンタリティがあるとし、今はむしろ公的なものに依存しない民間のミッションこそ必要な時代であると言います。
社会福祉法人になると行政の監督が強くなりすぎ、NPO法人だとミッションの継続性が保ちにくい。「篤志家のミッションが後の世代に続かない場合に持続可能でなくなる」という弱点を克服する道を、賀川豊彦は「友愛と連帯」による協同組合運動に求めました(救貧から防貧へ)。これは広井氏の言う「拡大・成長」時代が終わったローカルなコミュニティ・レベルの福祉に、また稲垣の言う「コープとコーポのダイナミズム」の時代に重なります。まさに新たな精神革命にもとづく地球倫理の必要な時代になっているのではないでしょうか。  (稲垣久和)

B-1 研究会 開催趣旨(PDF)
広井良典氏 レジュメ(PDF)
岡村清子氏 レジュメ(PDF)
岡村清子氏 参考資料(PDF)

後日、全体の記録を掲載します。