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第4回A-1研究会「脳神経科学とポジティブ心理学」

11月21日(土)13:30-18:00|アイビーホール・オオゾラ
発題:
郡司ペギオ幸夫氏|理論生物学/早稲田大学理工学術院基幹理工学部教授
小林正弥氏|政治哲学・公共哲学/千葉大学法政経学部教授

 

郡司ペギオ幸夫氏は、数理生物学の視点から「世界に対して亀裂を入れる者」と題して発題されました。この文学的表現によって科学的方法を使った議論についてなにを表現したいのか、と興味をかき立てられました。発題の最後の方で明らかになったことは「閉じた世界観の外部からある情報が“侵入”することによってこそ新たな創発が起こる」ということで、これはシステムの外部性の重要性を示したものです。このことは、稲垣が「『宇宙の目的』再考」(1)(本文は➡こちら)で書いた「力学系の外から与えられるコントロール・パラメーターによる目的の侵入」(96頁)という表現を、より今日的な「ベイズ・逆ベイズ推論の数理モデル」によってもたらされる創発として示されたものです。筆者なりに哲学的コメントを加えるならば、科学言語と日常言語の還元不可能性(亀裂)という現実においても、両者が遭遇するところにおいてこそ対話的に意味の交換が成立する体験を、参加者がそれぞれの立場において味わえるということを示しています。

小林正弥氏は「ポジティブ心理学と公共哲学」と題して発題されました。

小林氏は2015年夏の第4回の当研究会において、ポジティブ心理学の3領域(①主観的感情、②個人の特性や性格、③ポジティブな制度・企業・労働・教育などの研究)のうち、③にあたる社会や厚生との関係が新しいフロンティアになっていることを報告されていました。小林氏はアリストテレスのエウダイモニアから、幸福追求のマクロなポジティブ心理学へのアプローチを試みていることから、アリストテレス的な美徳型のコミュニタリアン公共哲学を志向して、これをポジティブ公共哲学と呼んでいます。しかし、性悪説が中心になってきたリベラリズムの問題提起も無視することができません。たとえば討論の中で、今日のISによるフランスでのテロリズム(2015年11月中旬)をどのように捉えるかという問題提起もありました。中東からの移民二世がヨーロッパ社会の中で生まれ育ったにもかかわらず人格無視、人権抑圧、などを経験する中で心にトラウマを抱え、これが過激思想に触れたときにテロリズムに走るなどの現実があったのではないか、と。これらは、ポジティブ心理学よりも従来のネガティブ心理学や悪の深刻さを制度的に突き詰める必要性、幸福社会の実現よりも最小不幸社会の実現などの問題群になります。 (稲垣久和)


稲垣久和・イントロ

郡司ペギオ幸夫氏の資料