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第2回 B-1 研究会「市民ボランティア、地域ガバナンス、公共政策」

2014.10.25|ホテル東京ガーデンパレス 白鳳の間


発題:
長谷川(間瀬)恵美|神学、宗教学(キリスト教)/桜美林大学 人文学系 准教授
岡村直樹|宗教教育学、宗教心理学、現象学的研究方法論/東京基督教大学大学院 教授


長谷川(間瀬)恵美氏は、「魂への配慮 Spiritual Care―東日本大震災後の教育支援(釜石市立唐丹小中学校)活動報告」と題して東日本大震災後の教育支援について発題してくださいました。
釜石市立唐丹(とうに)町は人口2100人の小漁村で、震災により、死亡・行方不明者22名、住居の3分の1が全・半壊、市立唐丹小学校は全壊、中学校も大きな損傷を被りました。長谷川氏は、その小中学校生徒のスピリチュアル・ケアという教育支援に関わってこられました。具体的には、北欧に伝わる、光と再生の象徴である聖ルチアを記念した民俗的行事から、「光」(キャンドルライト)と「音楽」(パストラル・ハープ)と「祈り」による集いを、生徒、教師、近隣の寺の住職らと共同で行い、ケアの場を提供してきました。3年半以上たった現時点での論点は「公立学校での“宗教教育”の困難さ」です。それでも多元的なかたちでの宗教の公共的役割は「隣人の痛み・苦しみに共感して手を差し伸べること」として見直されるべきではないか、と結ばれました。

岡村直樹氏の発題は、「震災ボランテイア活動と若者の宗教心の発達」と題して、宗教系大学での9人の学生がボランティアに出かけた動機、原体験、事後の受け取り方についての質的研究による事例研究が語られました。
宗教心が、それまでの教えられるままの「紋切り型」状態から、「苦難の現実を見る」という体験の中で段階的に「成長・発達」する可能性をフォローしました。最後に、“社会的孤立”の著しい日本社会において、新たなかたちでの宗教施設の近隣地域における絆形成の役割が提言されました。
岡村氏の話題提供の一つに「社会が学生に成長の機会を提供する」という意味でのボランテイィア活動の学校教育上の制度化(サービスラーニング等のかたちでの単位化)が語られました。これが両発題に共通する、公共の場での「宗教のあり方」をめぐる討論の一つの焦点となりました。本来自発性にもとづくべきボランティア活動の必修化(強制化)は語義矛盾なのですが、教育の機会提供の一つと捉えることも可能です。ミクロな場面での善意としてのボランティアが、マクロな近代の公共政策において福祉国家の予算措置の軽減の“ボランティア活動の取り込み”となる現象が見られたことは否めません。近代国民国家の形成の途上において、日本の場合の特徴、「お上主導」がボトムアップな市民社会形成を阻んできた、ないしは市民の自治能力の欠如のゆえに公権力の介入を容易にしてきた等々を鑑みるとき、今後の“公共政策”において十分な議論を経るテーマであることが浮き彫りになったと言えるでしょう。  (稲垣久和)

 

稲垣久和・導入

長谷川(間瀬)恵美氏・レジュメ
長谷川(間瀬)恵美氏・PowerPoint 資料

岡村直樹氏・レジュメ
岡村直樹氏・資料